厳密さに拘る癖に用語の無責任な用法を好み、感覚の庭を耕している

2019-01-01から1年間の記事一覧

初めてのナン―周辺記憶

初めてインド料理に訪れたのは2014年の冬,乾燥した空気と厚着を強いる冷気が身を覆う昼下がり.喉を詰まらせるような失意で包まれていた僕の衰弱を見かねた両親が,近所に新しくできたインド料理屋に誘い出してくれた.幼い頃から好き嫌いが激しく,当時は…

庭園

ここは慣習だけが取り残された街。毎朝7時には規則を思い出させる鐘の音が波打つ。その鐘には願いが込められていた。確かに、想いが、祈りが込められていた。凝望を示す資料や文献はもうどこにも見当たらなかったが、音色はそれを主張し続ける。ああ、もう…

祖父の想い出と,死

ニ,三日前,僕と両親の三人で談笑しながら食事をしていると,父の携帯電話に着信があった.一番最初に振動音に気が付いたのは僕だったと思う.電話に出なくていいの,と聞くと「必要があればもう一度かけ直してくるだろう」と話していた.震える液晶画面に…

追想:解析学

心理的危機である自己同一性拡散の問題への対処として,分裂した自己を拾い集める目的で,過去の楽しかった記憶について,適宜日記形式で記述していこうと思う.私は一体誰であったのか,本当は何をしていたのか.それらの記憶から,帰納的に,可能ならば演…

少年は空を辿る

「いつも,いつまでも,見守っているよ.」 床の上に転がったまま放置されているクレヨンを手に取ろうとした瞬間,懐かしい声が聴こえた―ような気がした.もちろんそれは幻聴だったが,目まぐるしく変化する拍子のなかに秘められた伝言を探り抜くときのよう…

仮説検定

「標識くん,これからの時代,統計学ぐらい知っていないと生きていけないよ」 漁師みたいな名前の著者の本を,いつも持ち歩いていそうな友人がこんな風に声をかけてくる.『生きていけない』というが,一体君は何処を生きようとしているのだろう,といった疑…