厳密さに拘る癖に用語の無責任な用法を好み、感覚の庭を耕している

同形異音語

同音異義語なら聞いたことがあるけれど,同形異音語…?初めて聞いたなあ」

 

 電話一本で唐突に始まった言葉遊び.夜を吹かすための儀式,マリヴォダージュ.どこかの詩人が気取った言葉遊びだと笑っている.きっと簡素な作りの糸電話であったとしても,夢中になって付き合ってくれるような確信があるんだ.透明な糸で繋がっている世界で,僕らの糸を引き延ばそう.糸電話は距離を離さないとちゃんと言葉が届かないからね.みんなはこんな僕らの姿を見て笑うんだ.

「離れていく一方じゃないか」

形式としての"繋がり"は,距離が縮まったことなんて意味していないよ.そこら中に生えてる電柱を見てみなよ.誰もが誰かの中継点.口裏合わせて誰も傷つかなくて済む素敵な繋がりの体系!そんな繋がりを僕は同音異義語的な繋がりと呼んでいる.響きだけ揃えてさ,全く別な方向に視線をやっているんだ.それもありだと思うし,今はそういう形でしか共生を望めなくなっているような気もする.透明な糸が僕らを繋いじゃって,今まであった世界を壊しちゃったんだ.

 

 『同じ言葉で話したい』と語るあなたは,一体どんな会話を夢見ているのだろう.夢を言葉で定義したくないんだけどな.いや…定義できるだなんて微塵も思っていないよ.ふと,同形異音語的な繋がり,という言葉が浮かんでくる.同じものを自分の言葉で….その瞬間,僕は夢の中へ招待されたんだ.海面を照らす月の光,ピアノの音は聴こえてこない静かな夜.孤独の海を漂う夜."今"を言葉にしたければ一人っきりで考えなければならない.どうしてこんなに切ないんだろうね.沈める月,夜が明けてしまう.いつか終わる夢を真っ直ぐ見続けている綺麗な瞳が,鏡に変わった月面に映り込んでいる.先におやすみを告げた,あなたの瞳の奥から見つめる月.月に攫われた言葉たちが涙になって溢れ出し,孤独の海は深くなる.同じ月を見ながら,僕は同じ気持ちになれていますか.響きは違っていても,伝わっていますか.

 

 まだ緊張しきっていない糸電話の紙コップ.起きないように,そっと….