厳密さに拘る癖に用語の無責任な用法を好み、感覚の庭を耕している

DreamCube Pf.

 <君>が何処にいるのか,僕にはどうしても分かりませんでした.君は笑顔で「ここにいるよ」と答えてくれましたが,そこにいる君が,本当に僕が考えている<君>なのか分からなかったのです.そもそも,<君>は実在しているのでしょうか.表情豊かな君の声が耳を通り抜けるたびに,なんだか<君>が本当は何処にもいないような気がして,不安で圧し殺されそうになっていました.ですから僕は君が本当に<君>であるか確かめないとどうにも気が済みませんでした.

 

 人工冬眠室で永遠に訪れない春を待つ君の肉体,金魚鉢に浮かぶ君の脳髄,五角形の館で分裂する君の精神,玩具箱に片付けられた君の想い出.僕は<君>ではないものを君から,慎重に削ぎ落して,いくつかの箱に詰め込んでいきました.君の悲鳴や君の香りが部屋全体に染みついたものですから,耳を澄ませて嗅覚を研ぎ澄ませればいつでも君に会えるようになりました.決して嘘じゃありません.残響のように現れ続ける君は僕を眠らせてくれなくなりました.

 

 僕が<君>と呼んでいたものは,もしかしたら<僕>だったのかもしれない.そんな疑念が日に日に増し続け,自身が存在していることの罪悪感で圧し潰されそうになっていきました.君の中から<君>=<僕>だけを探していた僕は,君を殺さなければ安心できない僕は酷く幼稚でした.

 

 バラバラになった君を抱きかかえ,白百合を詰め込んだ棺の中で一人,さめない夢に閉じ込められました.